第257




八千枚護摩ーその三ー


 具体的な支度にかからねばならぬ。まず、火災報知器、昨今気温が上がってきた結果「護摩堂が毎朝火事だ」と誤報が出る。未明に家族の迷惑はこの上ない。温度センサーをサウナ風呂で使う一五〇度用の最高温のものにとりかえてもらう。これで誤報は回避されるだろう。もし鳴動したときはジェットドレンジャーを噴霧して温度を下げるようマニアル化しておこう。
 前にあげた中川善教前管の「八千枚護摩供」によるとずいぶん多くの支度をされたようだが、私の場合、基本的には千坐護摩の延長と思っているので肩を張らない。護摩檀を新調するなどもってのほか、昭和五十年頃、古い護摩段が焼け山口一男さんが鉄で作ってくれたものだ。爾来、徹龍師が七百座近く、大川戒博師が四百座余り、私が千座余り、他に弟子等若い僧侶に開放しているので合わせると二千数百座焚いている。そんなに多く焚いた護摩檀はめったにない貴重な檀だ。ぐるりの四本の柱を長い仮のものと八千枚の護摩木百八本ずつ入れる仮金剛盤二つがいる決まりだ。天井には炎除けに鉄板を貼るとか言うが、当山はすでに耐火ボードで防備している。それでも脇机、前机を一段高くして、焚きやすくした。衣帯は千座つきあってくれた焼け穴ばかりのものを使う。「次第」も同様のものに若干の手入れをしてつきあってもらおう。それでもいろいろ買いそろえるものがでてきた。火かき用熊手、じゅうの、火ばさみ、バケツ、煉瓦等々である。それにお供えものの類、それを整えるのを調支具という。当山では常にそろっているのでそれも在庫を確認し、高野山より良質の支具がそろう佐古の酒井薫明堂に注文。毎日お餅、木の実、ゆで小豆を供える決まりだが、これも現代のものを探す。他細かく規定してある。
 一方、身心の準備がたいへんだ。前行は一日七千五百遍、正行の一週間は一日一万五千遍、一座五千遍の不動真言を誦えると十万五千遍で五千遍程多いがもともと百八の念誦を百遍にしか数えない。数に執着するのは良くないという教えだ。言い慣れた真言のつもりが回を重ねるとどうしても終わりまで正確に誦えられなくなってくる 。口伝ではそれぞれの真言を書いておけと。それをなくする誦え方、もう一度初心に返って練習をする。また、長時間坐す。一番基本の動作の練習が必要だ。千座成満が見えたあたりからだんだん増やしていき先月末から一座二千五百遍の不動真言を誦えている。こういう二段構えの真言は早く誦えるとどこかが飛ぶ、遅くなるとダラダラして寝てしまう。やっかいな真言だ。中庸にして、かつ集中していなければならぬ。それも長時間。単に前行に入ったからとて出来るものではない。数日の修行がいる。これを念誦という、蓮華念誦(誦えるが自分の耳に聞こえる)金剛念誦(唇歯を合わせ小さく舌端を動かす)三摩地念誦(舌を動かさず心にて念誦する)声生念誦(鈴を振るごときもの)光明念誦(口から光明を出す)の五種がある。私は前三つで念誦していようか。こんなにたくさんの真言を何故誦えさせるのか。当初は先師達の後輩いじめかと思った。が、最近、不動明王のように動かないこと、お尻に根が張ってくるようなトレーニングだと体得し始めている。心はただただお不動さんと一体になることを求めて集中するのだ。護摩を焚く練習は今更と思うが、自分の作法に欠けたところ間違ったところがないかと確認しながらの護摩になる。
 口に真言を誦え、手に印を結び、心に諸々を観想する。これが三密修行の基本である。三つがお互いに連携して、修法を進めるわけだが、印をどうするのか詳細を書いた「次第」を見る。どうしても頭を下げ目を「次第」に近づける。そうすると両手はどちらかの肩に行ってしまうこれを印かたぎといい初心者の証左だ。私の場合、印、真言、全部覚えているものの、余念相交わりという言葉があるとおり、関空行きの飛行機の音、犬の声等々に気が取られ集中力を欠くこともある。後夜(早朝)の座は睡魔に襲われ気がついたら修法が終わっている。○○三昧と言えなくもないが忘却していることは間違いない。そんなわけで集中力の継続のトレーニングが何よりも肝要。かくして、ただただ修行前夜憂鬱になるのみ。
 六月六日、大川師から護摩木が届いた。八千枚は百八本を八十束、今年初めの甲子の日に伐材した木だ。行者の見えないところに置くとある。他に檀木というベースでも焼く木も甲子の木だ。それぞれ加行、正行の分トラック一杯の量だ。支具もだいたいそろった。いよいよ十日から加行(前行)開始。成満出来るか。ただ諸佛のご加護にたよるのみ。

サッカーワールドカップの諸相


 FIFAというのはIOC以上にいい加減な団体ということがはっきりした。IOCは開催国の実行委員会がチケットを販売するという。だから、あれだけ空席が目立つことはない。四年前のフランス大会では所謂ダフ屋が横行したのに懲り、今度は個人名を印刷したチケットに変わった。ところがそれを請け合ったイギリスの会社はこんな印刷したことがない。そのため日本への到着が大幅に遅れ関係者をヒヤヒヤさせたことは報道のとおり。だいたい印刷物というのは重い、こういう場合、重いものは最小限に運ぶのが原則だ。だったら、世界一印刷技術の高い日本か、韓国で刷ればよい。次に空席といっても五千席という単位である。徳島ならアスティ徳島が満杯の人数、ふざけるなといいたい。これだけ空席にされるとどこが損害を受けるのか。宮城県知事が「損害賠償」といっているようだからFIFA相手に戦えばよい。もう一つ最近になって韓国ではホテルも同じらしい。なんとなめた集団であろうか。
 もう一つはインターネットの過信ではなかろうか。ITはA点からB点にはいろいろなコースを選択してつながっていく、それでも交通渋滞のように時間がかかることもある。とはいうものの相手が空いてればつながる。相手が使用中ならいろいろな過程で保存されている。それを上回るとどうなるか知らない。結果、つながらないということになってしまう。こればかり頼りにすると問題が出ることを証明した。今後、こういったイベントに向かって改善されるであろうが、今回は過信しすぎたと思う。
 今、思うに韓日共同開催ということになったのは非常によかった。日本にあと十会場合ったとしたらどうだろう。中部をはじめ四国にも中国筋にも北九州にも会場ができたことは間違いない。だが、何万人も入るサッカー場が今後持ちこたえるのだろうか。この不況の中韓国が半分持ってくれたこと大いに感謝するべきであろう。それも喜んでやってくれたのだからありがたい。
 会場について面白いことを発見した。ドームは札幌、大分二回場、日本にしかない。日本の十会場うちサッカー専用は鹿島、埼玉、神戸のみで後は総合競技場(多目的)である。その結果かも知れないが、日本の方が収容人員が大きいのが多い。それに較べ韓国は総合競技場がインチョン、プサン、テグの三会場だけで後はサッカー専用である。さてさて、人口一億三千万人の日本でも今後この総合競技場をもてあますと思われる。だのに人口五千万人弱の韓国にこれだけサッカー専用の競技場を作って大丈夫なのだろうか。サッカーだけを見る限りピッチ(芝生面)すぐスタンドがあり雰囲気が良いことは疑いない。が、札幌ドームのように多目的である必要はないのか。隣国ながらそれが心配だ。
 韓国と日本はだいぶ雰囲気が違う。韓国のソウルほか三つの大都市では車を偶数の日には車番が偶数、奇数の日は奇数の車しか走れないという。それで市内は普段の半分ぐらいの時間で目的地へ着けるそうだ。ワールドカップの人はよい。が、一般市民で車での生活が必然の人はこの一ヶ月さぞ不便であろう。警備も半端なものではない。韓国軍は臨戦態勢に近いかたちでミサイルも準備してテロ警備しているという。そのため競技場近くにある空港は閉鎖ということもある。韓国からは絶対に事故テロは出さないということか。札幌ススキ野の酒場で飲んでいる外人の風景が放映される。日本はのんびり、安心して飲めるなという印象を持った。ただ、日本は値段が高いのが問題らしい。これから後半報道陣は二つの国で試合をした選手、サポーターに忌憚ない意見をレポートしてほしい。
それにしても世界レベルの選手は凄い。みんなサッカー場端から端へボール蹴るなど朝飯前、ある老齢のサッカー好きは「あんなサッカーしていたら、我々は全部ファールとられた。上着をつかむ。格闘に行く、タックルする本当にすれすれのプレーだ」と私はサッカーを面白くなさしめているルールにオフサイドがあると思っていた。しかし、彼は「これがあるからサッカーを面白くさせている。そうでなかったら世界クラスの選手は全部ゴールまで蹴る。そうするとゴール際に何人かおいといて思い切り蹴るとゴールできる。それだったら全く面白くない」と聞いて少々合点がいった。それにしたも「大男総身に知恵がなわりかね」というほど大きいのが素早く動くのだから世界は広い。

余録

 八千枚加行開白が明後日になった。まだまだ準備ができない。いらいらしているのだが、世間のおつきあいが重なってくる。早く始まってしまえと行った心境。今考えるとこの二十日という日程がよくとれたものだ。八千枚修行でお断りすることがまだ一度もない。多くの人々のご協力で修行させていただく幸せをかみしめている。
今年、八千枚にかくれてしまった観があるのは四万八千日。例年通り前夜祭から執り行いますからそちらにもぜひお詣りください。
 下の段に徳島青年会議所の中学生セミナーの広告を入れてあります。本来、朝念暮念の趣旨とは異なりますがご容赦を。
 これは、中学1,2年生を対象としたセミナーで、子供たちのリーダーシップを開発するものです。
 3泊4日の短い間ですが、行く前とは、見違えってしっかりしてきます。
 ゆとりの教育、生涯教育と言われている昨今、部活や塾だけでなく、こんなセミナーに参加してみるのもいかがでしょう